エリオット=アーウィットの写真について

「エリオット=アーウィット」という名を初めて聴いたのはいったいいつ頃だったろうか。写真を撮るようになってから、高名な写真家の作品を見る機会がふえていったが、それでも彼の作品を間近で鑑賞することはなかった。

 写真集で見る限り、彼の作品はスナップの手本のようなものであった。肩に力を入れず街を徘徊し、目に留まったものを写し撮ってゆく。その中には、街の表情や人々の姿、偶然出会った決定的な瞬間がある。そういう意味では彼の作品はアート的というよりも、庶民的で人なつっこい面が多分に含まれているように感じられた。
 しかし、彼の写真の魅力はそれだけではない。彼の写真には私たち一人一人が温もりのようなものがある。
 一人の人間が生きるとき、ドラマティックな出来事がそれほどあるわけではない。感動を追い求めていても、平坦な日常が続くこともある。しかしそれでもなお私たちはちょっとした出来事に心を動かされるときもあれば、何気ない日常にぬくもりを感じることもある。何か人に語るほどのことではないが、それでも何か「いい」と感じられるもの。エリオット=アーウィットの写真には、その日常の中に中に埋もれてしまいがちなものをそっとすくいあげる「温もり」にあふれている。