ドイツ写真の現在

anotherwork2005-12-03

「ドイツ写真の現在― かわりゆく「現実」と向かいあうために」

1989年秋にベルリンの壁が崩壊し東西が再統一されて以来、ドイツは今までにない変革期を迎えた。それまで、行き交うことがなかった西側の民主主義文化と東側の社会主義文化が融合し、全く新しい文化が生まれたのだった。

今回の展覧会は、その新しい「ドイツ」で生まれているドイツの写真を、「現実」にたいしてさまざまなアプローチを試みている十人の作家たちによって紹介するというもの。

実際に観てきた感想としては、まず個性豊かな十人の作家がそれぞれ全く異なる手法で、それぞれの「現実」にせまっていて、その違いがなかなかおもしろい。

たとえば、ベルント&ヒラ・ベッヒャーは、炭鉱の採掘塔などの近代産業を、「無名の彫刻」として一定の構図、光線条件で撮影している。一方、ヴォルフガング・ティルマンスは、日常をとりまく事物のスナップショットや光と色彩による抽象的な写真を自由自在に撮影している。両者の手法は全く異なるが、ともにドイツの「現実」を写し出している点では変わりがない。

多数ある作品の中で、最も印象的だったのは、アンドレアス・グルスキーとハンス=クリスティアン・シンクの作品だった。

アンドレアス・グルスキーは資本主義社会の様態を象徴的にあらわす場所を、デジタル加工を取り入れた手法により、パノラミックで巨大な作品を撮影。たんに現代社会を映し出すだけでなく、その世界で構築されている「システムの美」をみごとに描ききっている。圧倒的なスケールで描かれるその迫力にはまさに脱帽もの。

一方、ハンス=クリスティアン・シンクは、人気のない道路や橋、鉄道などの巨大建造物を撮影。旧東ドイツから西側諸国につながる道路や橋という機能的で合理的なものに、人がいないという現実を写すことで、社会的な矛盾を浮き上がらせている。社会的矛盾を問題にしながらも、作品が透明感あふれる清澄なイメージに仕上がっているところがすばらしい。

他の作家の作品も質の高いものだったが、二人の作品は中でも群を抜いているように私には思える。