2006-01-01から1年間の記事一覧

小石川後楽園にて

小石川後楽園で撮影しているときだった。池の前に置かれたベンチに一人の女性が座って、ぼんやりと池を眺めている。私はその女性が立ち去ってから撮影しようと、しばらくの間待っていた。しかし、その女性は立ち去るどころか、遠くにまたがる池を見つめたま…

生きる瞬間

写真を撮っていると日常の雑事など忘れてしまう瞬間がある。そんなときは、たとえどんなに厳しい環境であっても頭が真っ白になり、生き生きとした充実感が体の底から湧き上がってくる。そして「生きてる」という実感が体中に駆けめぐっていくのだ。もちろん…

哀愁

空き時間に近所にある土手を歩いていたら、一人の老人の姿が目にとまった。ベージュのソフト帽をかぶったその老人は、土手沿いの階段に腰掛けて河川敷で行われている草野球をぼんやりと見つめているようだった。天気がよい日はこんなふうに草野球を観戦して…

死の影

その日は雨だった。私はほんの少しいつもより遠いところで写真を撮ろうとして、いつのまにか見知らぬ街に迷い込んでいた。周囲に人はいなく、雨が路面を打つ音だけが静かに聞こえていた。目の前には見覚えのない、曲がりくねった薄暗い坂道がどこまでも続い…

植田正治   写真の作法

ある雑誌に、不思議な白黒写真が載っていた。『停留所の風景』と題されたその作品には、小さな小屋のような停留所と、そこでじっと電車がくるのを待っている人々が小さく写っていた。一見、何の変哲のない昭和初期の日常風景ではあるが、それが自然と日常性…