植田正治   写真の作法

anotherwork2006-01-23

ある雑誌に、不思議な白黒写真が載っていた。『停留所の風景』と題されたその作品には、小さな小屋のような停留所と、そこでじっと電車がくるのを待っている人々が小さく写っていた。

一見、何の変哲のない昭和初期の日常風景ではあるが、それが自然と日常性を超え出た世界となって現れるから不思議だ。

植田正治とはいかなる写真家であるのか、私はそのとき強烈に興味を持った。


東京都写真美術館に行ったのはそれから一週間ほど経ってからだった。とりたてて植田正治のことを調べずに、私は彼の作品を観た。

展覧会場にあった説明を読むと、彼は戦後、隆盛をきわめていたリアリズム的手法を取り入れることなく、モダンでシュールな演出写真を撮り続けたという。

彼の代表作的なシリーズ「砂丘モード」や、「少女四態」、「パパとママとコドモたち」などはその代表的なものだろう。伝統的な構図を廃し、人物を様々な角度に向けて配置することによって、彼は現実の中に潜む異質の世界をみごとに浮かび上がらせている。

しかし、彼の写真にはそうしたシュールさはかけ離れた点もあるように思える。1950年代から1970年代にかけて制作されたシリーズ「童暦」には、花を持った少年が満面の笑みを浮かべているところを撮影した作品がある。モダンでシュールという彼のイメージからすると意外な作品だが、植田正治という人間の温かな眼差しが感じられる作品でもある。

そういうことを考えてよく彼の作品を観ると、彼の作品には人間やその世界に対する温かな眼差しが随所に潜んでいるように思えてくる。シュールでありながら、どこかほのぼのとした雰囲気が感じられるのはきっとそのせいだろう。



植田正治は1930時代から本格的に活動を始め、戦後にいたってめざましい活躍をした後に、2000年7月4日に他界した。しかし、その作品は輝きを失うことなく、今なお人々を魅了し続けている。