アウグスト・ザンダー展

anotherwork2005-12-04

アウグスト・ザンダー展    東京国立近代美術館

ここに展示されている作品「時代の顔」は、もともとは作品「20世紀の人間」のための予告編になるはずのものだった。

しかし、その後予定してした「20世紀の人間」は、最終章となるはずだった「最後の人々」が完成せず、未完のまま終わった。

ザンダーの試みは、1.農民、2.職人、3.女性、4.階級の職業、5.芸術家、6.都市、7.最後の人々と章立てし、「あらゆる階層と職業」の人々の膨大な肖像写真の集積から、20世紀の世界像を描き出そうというもの。

その背景には、写真という新しい芸術手法の独自性を最大限に活かし、被写体のありのままの姿を克明に描き出すことで、時代や社会を浮き上がらせることができるはずだというザンダーの確固たる信念があった。

実際にザンダーの写真には、ただモデルを描き出すだけではなく、その人間性や人柄、生活スタイルまでもが、にじみでるようなものばかりだ。ザンダーが撮ったあらゆる人々の様々な姿を通して、私たちは過去に出会うことのなかった人たちをより深くうかがい知ることができる。

彼らは写真という作品を通して、私たちに語りかけてくる。そしてそれと同時に、今まで漠然としていた20世紀の時代や社会までもが、リアルな輪郭を帯び始めるのだ。

ザンダーが発表する予定だった「20世紀の人間」は残念ながら未完に終わったが、私たちは今回の展覧会を通して、その作品が見せるはずだった本当の姿を垣間見ることができるだろう。